床の間に掛け軸を飾りたい。あるいは実家にあった掛け軸をどう扱えばよいか分からない。掛け軸は身近なようでいて、いざ向き合うと決まりごとが見えにくいものです。
覚えることは多くありません。種類・季節・掛け方の3つを押さえれば、迷わず飾れるようになります。
この記事では掛け軸の基本的な構成から、床の間に対する適切な寸法、季節ごとの掛け替え、実際に掛けるときの手順までを整理します。
掛け軸とは何か
書や絵を布や紙で装丁し、掛けて鑑賞できるようにしたものです。巻いて収納できるため、季節や行事に合わせて掛け替えられるのが最大の特徴です。
額装した絵と違い、飾りっぱなしにしないのが前提の道具といえます。日本の住まいが限られた空間で四季を映してきた工夫の一つです。
各部の名称
扱ううえで知っておくと便利な名称です。
- 本紙(ほんし):書や絵そのもの。中心となる部分
- 天地(てんち):本紙の上下にある裂地(きれじ)の部分
- 軸棒(じくぼう):下端の棒。巻くときの芯になる
- 軸紐(じくひも):掛けるための紐
- 鐶(かん):紐を通す金具
- 風鎮(ふうちん):軸の左右に下げる重り。揺れを抑える
種類と格を知る
表装の格「真・行・草」
掛け軸は装丁の形式によって真(しん)・行(ぎょう)・草(そう)の3つに分けられます。格式の高さの区別です。
- 真:もっとも格式が高い。本紙のまわりを何重もの裂地で囲む。仏画や高僧の書に
- 行:中間の格式。もっとも一般的で、床の間に掛けるものの多くがこれにあたる
- 草:格式にとらわれない自由な形式。茶室や趣味の書画に
家庭で飾るのであれば「行」を選んでおけばまず外しません。真は仏事や特別な場、草は茶室向きと考えてください。
掛ける場面による分類
- 床掛け:床の間に掛ける一般的なもの
- 仏事用:法要や仏壇まわりに用いる
- 茶掛け:茶室に掛ける。禅語の一行書が多い
用途が異なるものを取り違えると場にそぐわなくなります。購入の際はどこに掛けるかを先に決めてから選んでください。
床の間に合う寸法の選び方
掛け軸選びで最も失敗しやすいのが大きさです。作品の良し悪しより、床の間との寸法関係が仕上がりを左右します。
目安として、掛け軸の横幅は床の間の幅のおよそ3分の1が収まりのよい比率とされます。広い床の間に細い軸を掛けると寂しく、狭い床の間に幅のある軸を掛けると窮屈に見えます。
床掛けの代表的な寸法は尺五(しゃくご)と呼ばれる形式で、幅54.5cm・高さ190cm程度です。一般的な床の間であればこの前後が基準になります。
高さについては、巻いた部分が床に着かず、上部にも余白が残る長さを選びます。天井の低い住宅では、短めに仕立てたものを選ぶ必要があります。
床の間そのものの構造は和室の床の間の種類と意味や起源までを徹底解説で解説しています。
季節で掛け替える
掛け軸の本来の使い方は掛け替えることにあります。一年中同じものを掛けておくものではありません。
- 春:桜、梅、鶯(うぐいす)
- 夏:涼を感じる水辺、朝顔、鮎
- 秋:紅葉、月、菊
- 冬:雪景色、椿、松
掛け替えの時期に厳密な決まりはありませんが、季節を少し先取りするのが粋とされます。桜が満開になってから桜の軸を掛けるより、咲く前に掛けるほうが趣があるという考え方です。
通年掛けられるもの
季節ごとに揃えるのは負担が大きいものです。まず一幅だけ持つのであれば、通年掛けられるものを選んでください。
山水画や、特定の季節を示さない花鳥画、めでたい意匠のものは一年を通して使えます。慶事と弔事の両方に使える無難な意匠を選んでおくと、いざというときに困りません。
掛け方と外し方
掛ける手順
- 床の間の落掛(おとしがけ)にある釘の位置を確認する
- 矢筈(やはず)という道具で軸紐を引っ掛け、釘に掛ける
- 巻いた状態のまま掛け、ゆっくりと下へ広げる
- 左右の傾きを確認し、必要であれば風鎮を下げる
矢筈がない場合は脚立を使いますが、本紙に手を触れないことが鉄則です。手の脂は時間をかけてシミになります。
外して仕舞う手順
- 下からゆるみなく、まっすぐ巻き上げる
- 巻き終えたら軸紐を巻きつけて留める
- 桐箱に入れ、湿気の少ない場所で保管する
巻きが緩いと折れやシワの原因になります。かといってきつく巻きすぎると本紙を傷めます。形が崩れない程度を意識してください。
年に一度は箱から出して風を通すと長持ちします。湿気はカビ、乾燥しすぎは反りの原因になります。
飾るときに気をつけること
- 直射日光を避ける:色あせと紙の劣化を招く
- エアコンの風が当たる位置を避ける:乾燥と揺れの原因になる
- 長期間掛けっぱなしにしない:折れ癖と日焼けが定着する
- 湿気の多い場所に置かない:カビが最大の敵
掛け軸は掛けている間より、仕舞っている時間のほうが長い道具です。保管環境が寿命を決めます。
和室の湿気対策はお手入れ・トラブルのまとめもあわせてご覧ください。
自分で作るという選択
既製品を買うだけでなく、書いた作品や好きな絵を掛け軸に仕立てることもできます。子どもの書き初めや自作の書を飾る方も少なくありません。
本格的な表装は専門の技術を要しますが、簡易的な方法であれば家庭でも作れます。手順は床の間に飾る掛け軸を自作!作り方をご紹介で詳しく紹介しています。
よくある質問
床の間がなくても飾れますか
飾れます。壁に専用の掛け軸用フックを取り付ければ問題ありません。ただし直射日光とエアコンの風だけは避けてください。近年は洋室に合う短い寸法のものも増えています。
掛け軸は何本持っておけばよいですか
はじめは通年使える一幅で十分です。慣れてきたら正月用と季節のものを足していくとよいでしょう。数を揃えるより、掛け替える習慣がつくかどうかのほうが大切です。
古い掛け軸に価値があるか知りたいのですが
落款(らっかん)や箱書きが手がかりになりますが、素人判断は難しい領域です。処分を考える前に、表具店や専門の鑑定に相談してください。傷んでいても表装を直せば使えることがあります。
シミやシワができてしまいました
自分で伸ばそうとすると悪化します。表具店で仕立て直しができるため、まず相談してください。本紙が無事であれば、周囲の裂地を替えて仕立て直せます。
まとめ
掛け軸の基本について、要点を整理します。
- 表装の格は真・行・草。家庭用なら「行」で外さない
- 幅は床の間の3分の1が目安。代表的な寸法は尺五(54.5×190cm前後)
- 本来は季節で掛け替えるもの。一幅目は通年使えるものを
- 掛け外しは本紙に触れず、矢筈を使ってゆっくりと
- 寿命を決めるのは保管環境。直射日光と湿気を避ける
掛け軸は、限られた床の間という空間で季節を入れ替えるための道具です。決まりごとを気にしすぎるより、掛け替える楽しみのほうを大切にしてください。
和室の設えについては和室づくりのまとめもあわせてご覧ください。