台風や豪雨で和室が浸水し、畳が水に浸かってしまった。そんなとき、何から手をつければよいのか迷う方は少なくありません。
結論から言えば、優先すべきは「記録」「安全確保」「乾燥」の3つです。畳を運び出す前に写真を撮っておかないと、あとで罹災証明書や保険の手続きに支障が出ることがあります。
この記事では、被害直後にやるべきことから、畳と床板の処置、費用の目安、保険の扱いまでを順に解説します。
畳が水に浸かったら、まず最初にすること
片付けを始める前に、必ず済ませておきたいことが2つあります。あとから取り返しがつかない部分なので、慌てて畳を運び出す前に確認してください。
片付ける前に写真を撮る
罹災証明書の申請や、火災保険の請求には被害状況がわかる写真が必要になります。片付けてしまってからでは証明できません。
撮っておきたいのは次の4点です。
- 建物の全景(浸水した高さがわかるように)
- 浸水の跡が残っている壁面(メジャーを当てて高さがわかると理想的)
- 水に浸かった畳や家財の状態
- 部屋ごとの被害の様子
罹災証明書は、被害を受けた住宅の被害程度を市区町村が証明する書類です。各種の支援制度や税の減免を受ける際の基礎になります。申請の受付方法は自治体によって異なるため、落ち着いたら窓口やウェブサイトで確認してください。
感電と衛生面の危険を避ける
浸水した室内には、見た目では分からない危険があります。作業に入る前に次の点を確認してください。
- 電気:コンセントや電化製品が水に浸かった場合は、ブレーカーを落としてから作業する
- 汚水:浸水した水には下水や泥が混ざっていることが多く、素手で触るのは避ける
- 装備:ゴム手袋、長靴、マスクを着用する。作業後は手洗いを徹底する
- ケガ:水中に割れたガラスや釘が沈んでいることがある
床上浸水と床下浸水では対処が変わる
同じ「浸水」でも、水がどこまで達したかによって必要な作業はまったく違います。まずは自分の家がどちらに当たるかを確認しましょう。
床下浸水(床板より下まで)
水が床下までにとどまり、畳や床板が濡れていない状態です。この場合、畳の交換までは必要ないことが多いといえます。
ただし床下に水と泥が残ったままだと、湿気が上がってカビの原因になります。床下の排水・泥の除去・乾燥は必要です。畳は念のため上げて、風を通しておくと安心です。
床上浸水(床板を超えて室内まで)
畳が水に浸かった状態です。この場合は畳の交換が基本になります。理由は後述しますが、乾かして再利用するのは現実的ではありません。
床板や根太(床板を支える木材)にも水が回っているため、床下の処置とあわせて対応が必要です。次の章で手順を解説します。
浸水した畳と床の処置|7つの手順
本来は畳店や工務店に依頼するのが確実です。しかし災害時は被害が広範囲に及び、業者の手配に時間がかかることも珍しくありません。待っている間に自分でできる範囲の作業を、順を追って説明します。
1. できるだけ早く畳を上げる
水を含んだ畳を放置すると、床板や根太への被害が広がります。できるだけ早く室内から運び出しましょう。
藁床(わらどこ)の畳は水を含むと非常に重くなり、乾いた状態の2〜3倍の重さになることもあります。持ち上がらない場合は、手鉤(てかぎ)を畳の縁に引っかけて起こすと扱いやすくなります。工具の先端でケガをしないよう十分に注意してください。
運び出した畳は、災害廃棄物として自治体の指定する場所へ搬出します。多くの自治体では罹災証明書の提示などにより無償で引き取ってもらえますが、受付場所や条件は自治体ごとに異なります。
2. 床板の浸水状態を確認する
畳を上げたら、床板がどの程度濡れているかを確認します。
表面が濡れている程度であれば、よく乾燥させたうえで新しい畳を入れれば済みます。スポンジやタオルで水気を拭き取り、除湿機やエアコンの除湿機能で乾かしてください。停電している場合は、窓を開けて時間をかけて自然乾燥させます。
床板を踏んで沈む感触がある、水が染み出してくるといった場合は、床下まで水が回っています。次の手順に進んでください。
3. 床板を外して床下の水を抜く
床下まで浸水している場合は、床板を外して排水する必要があります。床板を剥がす際はバール(釘抜き)を使うと作業しやすくなります。
本来は排水ポンプを使う作業ですが、一般家庭で所有していることは稀です。バケツやスポンジ、吸水力の高いタオルなどを使い、根気よく水を汲み出していきます。
床下は狭く空気がこもりやすい場所です。長時間の作業は避け、こまめに換気しながら進めてください。
4. 泥を洗い流して乾燥させる
排水が終わったら、床下に残った泥や汚れを洗い流します。汚れを落としたら、再び水気を拭き取ってください。
このあとの乾燥がもっとも重要な工程です。窓を開けて通風を確保し、可能であれば送風機や扇風機を床下に向けて回します。床下の乾燥には数日から数週間かかることもあります。急がず、完全に乾くまで続けてください。
生乾きのまま床板を戻すと、あとからカビと悪臭が発生します。ここで手を抜かないことが、その後の住み心地を大きく左右します。平時の湿気対策については湿気に弱い和室のカビ対策も参考になります。
5. 乾燥後に消毒する
浸水した水には下水や汚泥が混ざっていることがあり、衛生面の対策が必要です。
ただし消毒より乾燥が優先です。濡れたまま消毒剤を使っても効果が薄く、乾燥が不十分なままではカビを防げません。十分に乾かしてから消毒に移ってください。
消毒剤の種類や使い方は、被害の状況や地域によって推奨が異なります。お住まいの自治体や保健所が出している案内に従うのが確実です。災害時には各自治体から具体的な手順が案内されることが一般的です。
薬剤を使う際は、種類を問わず換気を確保し、ゴム手袋・マスク・保護メガネを着用してください。特に消石灰(水酸化カルシウム)は目や皮膚に入ると危険なため、取り扱いには十分な注意が必要です。
6. 床板を張り替える
床下が完全に乾き、消毒も済んだら床板を戻します。傷みが激しい場合は新しい板に交換します。寸法に合わせて切った床板を、根太に釘で留めれば完了です。
日曜大工の経験があれば対応できる範囲ですが、根太自体が傷んでいる場合は構造に関わるため専門業者に任せてください。排水・乾燥・消毒まで済んでいれば、多少日数が空いてもカビの心配は少なくなります。
7. 新しい畳を入れる
床板が整ったら、新しい畳を敷き込みます。畳は部屋ごとに寸法が異なるため、採寸したうえで製作するのが一般的です。注文から納品まで数日から数週間かかることもあります。
すぐに部屋を使いたい場合は、既製サイズの置き畳(ユニット畳)で一時的にしのぐという選択肢もあります。正規の畳が入るまでのつなぎとして、また今後の水害に備えて「濡れても1枚単位で交換できる床材」として使う方も増えています。詳しくはフローリングに敷く置き畳の種類と役割や特徴と使うときの注意点もあわせてご覧ください。
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濡れた畳は乾かせば使えるのか
「天日で干せば元に戻るのでは」と考える方は多いのですが、一度水に浸かった畳の再利用は基本的におすすめできません。
理由は3つあります。
- 内部まで乾かない:藁床は厚みがあり、表面が乾いても芯に水分が残る
- カビと臭いが残る:汚水を吸っているため、乾かしても臭いが抜けにくい
- 変形する:乾く過程で反りや縮みが起き、元の寸法に戻らない
建材畳床(発泡スチロールや木質繊維板を使ったもの)は藁床より水を含みにくいものの、汚水に浸かった以上は衛生面の懸念が残ります。畳床の種類については和室の畳の主な素材について解説をご覧ください。畳の状態を判断しかねる場合は、畳店に写真を見せて相談するのが確実です。
畳の交換にかかる費用の目安
浸水被害では畳の新調(畳床ごと交換)が基本になります。費用は畳表のグレードや畳床の種類によって幅がありますが、一般的な目安は次のとおりです。
- 新調(畳床ごと交換):1畳あたり10,000〜35,000円程度
- 表替え(畳床は再利用し、畳表と縁を交換):1畳あたり4,000〜15,000円程度
ただし浸水した畳は畳床まで傷んでいるため、表替えでは対応できず新調になるのが通常です。裏返し・表替え・新調の違いは和室の畳の交換について|裏返し・表替え・新調(交換)の違いって?で詳しく解説しています。6畳間であれば、単純計算で6万円から20万円程度を見込んでおくとよいでしょう。
床板や根太の補修が必要な場合は、これに別途工事費がかかります。複数の業者から見積もりを取り、内訳を確認することをおすすめします。
火災保険は使えるのか
浸水被害は、火災保険の「水災補償」の対象になる場合があります。火災保険という名称ですが、補償範囲は火災だけではありません。
確認しておきたいのは次の点です。
- 契約に水災補償が含まれているか(含まれていない契約もあります)
- 支払いの条件(「床上浸水」または「地盤面から一定の高さ以上の浸水」などの基準が設けられていることが一般的です)
- 畳や家財が対象になるか(建物と家財で契約が分かれている場合があります)
条件や補償内容は保険会社・契約によって異なります。まずは証券を確認し、保険会社または代理店に連絡してください。この際にも片付ける前に撮った写真が必要になります。
業者に依頼すべきケース
次のいずれかに当てはまる場合は、自分で作業を進めず専門業者に相談してください。
- 床板を踏むと沈む、きしむなど、構造材の傷みが疑われる
- 床下の水が引かない、湿気が長期間残る
- 数日経ってもカビ臭さが取れない
- 浸水の範囲が広く、自力での作業が難しい
- 作業する体力や時間が確保できない
特に根太や大引といった構造材が傷んでいる場合、表面だけ直しても数年後に床が沈むことがあります。判断に迷う段階で相談しておくほうが、結果的に費用を抑えられます。
まとめ
和室が浸水したときの流れを、あらためて整理します。
- 片付ける前に写真を撮る(罹災証明書・保険のため)
- ブレーカーを落とし、ゴム手袋・長靴・マスクで安全を確保する
- 畳を上げ、床板と床下の状態を確認する
- 排水・泥の除去のあと、時間をかけて完全に乾燥させる
- 乾いてから、自治体の案内に従って消毒する
- 床板を整え、新しい畳を入れる
浸水した畳は再利用が難しく、交換が前提になります。落胆されるかもしれませんが、床下をしっかり乾かしておけば、その後の張り替えは慌てて行う必要はありません。急ぐべきは乾燥、待てるのは畳と覚えておくとよいでしょう。
被害に遭われた方が、一日も早く元の暮らしに戻れることを願っています。