「四畳半の畳を左回りに敷くと切腹の間になる」。畳の話題でよく出てくる言い伝えです。新築や畳替えのときに気になって調べた方も多いはずです。
先に結論をお伝えします。この説を裏づける史料は、現在のところ見つかっていません。広く知られてはいますが、根拠がはっきりしないまま伝わってきた話です。
この記事では、切腹の間と呼ばれる敷き方が何を指すのか、なぜ根拠が乏しいとされるのか、そのうえで実際に気にする意味のある畳の敷き方まで整理します。
切腹の間とは何を指すのか
四畳半の部屋では、半畳を中心に4枚の畳を風車のように並べます。このとき畳の並びが左回りになる敷き方を「切腹の間」と呼ぶ言い伝えがあります。
右回りが通常で、左回りは縁起が悪いとされます。半畳を中心に据える構成そのものは同じで、回る向きだけが違うという区別です。
呼び名の由来として挙げられるのは、主に次の2つです。
- 四畳半で切腹が行われた際、中央の半畳を剥がして用いたという説
- 千利休が切腹したのが四畳半の茶室であったという説
史料的な裏づけは見つかっていない
ここが最も大切な点です。この説を裏づける確かな歴史資料は、現在のところ確認されていません。
藩の記録を調べた例では、切腹に関する記述そのものは残っているものの、今日いわれる四畳半の畳の配置とは一致しないと報告されています。作法として畳の敷き方が定められていた形跡が見当たらないのです。
広まった背景としては、時代劇や絵画から受けた印象が影響しているという指摘があります。切腹が行われていたのは江戸時代末期までで、その作法を直接知る人はもういません。伝聞が重なるうちに定説のように扱われるようになった、と考えるのが自然です。
つまり「左回りだから不吉」と断じる根拠は乏しく、過度に気にする必要はありません。畳店のなかにも、この説に疑問を示す立場は少なくありません。
では何を気にすればよいか
根拠が定かでない説がある一方、実際に区別されてきた敷き方は存在します。こちらは覚えておく価値があります。
祝儀敷きと不祝儀敷き
畳の合わせ目の作り方による区別です。
- 祝儀敷き:畳の角の合わせを十字にしない。日常の敷き方
- 不祝儀敷き:畳の角の合わせが十字になる。弔事の際の敷き方
四隅が一点で交わる形を避けるのが通常の敷き方、という理解で問題ありません。畳を敷き直したあとに合わせ目を確認するだけで判断できます。
なお不祝儀敷きは寺院や葬儀の場で用いられるもので、住宅で意図せずこの形になっていたとしても、何かが起こるという性質のものではありません。あくまで場に応じた作法です。
茶室は例外
茶室では、点前の動線や客の座る位置に合わせて畳の配置が決まります。一般の住宅とは前提が異なるため、同じ基準では考えません。
四畳半の茶室は茶の湯の基本となる広さで、独自の作法体系のなかで畳の向きが定められています。
言い伝えとどう付き合うか
根拠が薄いとはいえ、気にする方がいるのも事実です。実務的には次のように考えるとよいでしょう。
- 自宅で自分たちだけが使う部屋:気にしなくてよい
- 客を通す部屋、年配の方が集まる部屋:通常の敷き方に合わせておくと余計な気遣いが生じない
- 畳替えを依頼するとき:職人は通常の敷き方を心得ているため、特に指定しなくてよい
畳替えの際に元の配置を写真に撮っておくと、戻すときに迷いません。畳には敷かれていた位置ごとの微妙な寸法差があり、入れ替えると隙間が出ることがあるためです。
畳の敷き方の作法全般については畳の敷き方ルールを紹介!で詳しく解説しています。
四畳半という広さについて
四畳半が特別視されてきたのは、この広さが日本の住空間の基準のひとつだったためでもあります。
茶室の基本であり、下宿や書斎の代名詞でもありました。半畳を中心に置く構成は四畳半に固有のもので、ほかの広さでは生じません。言い伝えが四畳半に集中する理由はここにあります。
現在も、書斎や趣味の部屋として四畳半は使いやすい広さです。床の間を設ける場合の考え方は和室の床の間の種類と意味や起源までを徹底解説もご覧ください。
よくある質問
自宅が左回りでした。敷き直すべきですか
必要ありません。根拠のある作法ではないためです。ただし気になって落ち着かないのであれば、次の畳替えの機会に合わせて直してもらうとよいでしょう。畳を入れ替えるだけであれば大きな費用はかかりません。
畳の枚数によって縁起は変わりますか
四畳半以外の広さで同様の言い伝えは一般的ではありません。半畳を中心に据える構成が四畳半に固有であるため、この話も四畳半に限って語られます。
不祝儀敷きになっているか確認する方法は
部屋の中央付近を見て、畳の角が一点で十字に交わっているかを確認してください。交わっていなければ通常の敷き方です。四畳半の場合は半畳が中心にあるため、そもそも十字にはなりません。
畳の縁を踏んではいけないというのも迷信ですか
こちらには実用的な理由があります。縁は畳のなかで最も傷みやすく、踏み続けると擦り切れます。作法としての由来は諸説ありますが、畳を長持ちさせるという点では理にかなった習慣です。
まとめ
切腹の間について、要点を整理します。
- 四畳半を左回りに敷いた形を指す言い伝えだが、裏づける史料は見つかっていない
- 由来とされる話も伝聞で、時代劇や絵画の影響という指摘がある
- 実際に区別されるのは祝儀敷きと不祝儀敷き。畳の角が十字になるかどうか
- 自宅の部屋であれば気にする必要はない
- 客を通す部屋なら、通常の敷き方に揃えておくと無難
言い伝えには、暮らしの知恵として意味のあるものと、由来がはっきりしないまま残ったものがあります。切腹の間は後者にあたります。畳を気持ちよく使うことのほうが、ずっと大切です。