茶道は日本の伝統文化です。単純にお茶を点てるだけではなく、その奥には「わびさび」があり、日本ならではの美意識や慣習について学ぶことができます。
茶道を始めたいという方の大きな悩みの一つが、"どの流派に入門するか"ではないでしょうか。入門する流派を選ぶには、まずそれぞれの流派について知らなければなりません。
本記事では、茶道の代表的な3つの流派についてご紹介していきます。ぜひ、流派選びの参考にされてください。
三千家と呼ばれる「表千家」「裏千家」「武者小路千家」とは?
茶道には「三千家」と呼ばれる、代表的な3つの流派があります。
- ●表千家
- ●裏千家
- ●武者小路千家
表千家
表千家は千家流茶道の本家です。宗家は「京都市上京区小川通寺之内通上ル」にあります。
表千家を象徴するのは、「不審菴(ふしんあん)」という名前の茶室です。「不審花開今日春(いぶかしはなひらく こんにちのはな))」という禅語がその名の由来で、自然の偉大さや不思議さをたたえる意味があります。現在は、一般財団法人不審菴が管理しています。
表千家の歴代家元は以下の通りです。
- 初代:利休(りきゅう)
- 二代目:少庵(しょうあん)
- 三代目:宗旦(そうたん)
- 四代目:江岑(こうしん)
- 五代目:良休(りょうきゅう)
- 六代目:原叟(げんそう)
- 七代目:天然(てんねん)
- 八代目:件翁(けんおう)
- 九代目:曠叔(こうしゅく)
- 十代目:祥翁(しょうおう)
- 十一代目:瑞翁(ずいおう)
- 十二代目:敬翁(せいさい)
- 十三代目:無盡(むじん)
- 十四代目:宗旦/而妙斎(じみょうさい) ※斎号
- 十五代目:宗左/猶有斎(ゆうゆうさい) ※斎号
表千家の作法
まず入室の際、表千家では左足から入り、一畳を6歩で歩きます。座る際は少し膝を開くようにし、女性はこぶし一つ程度、男性は安定する広さにするのが良いとされています。
座礼をする際は正座の状態から、すこし離した状態の両手を畳へ八の字の形につき、30度ほど体をゆっくりと前に傾けるのが正しい作法です。背中は曲がらないよう、まっすぐの状態を保ちます。
表千家のお茶の点て方
お茶を点てる際は、あまり泡を作りすぎないようにします。そのため、お茶を点てる道具の「茶筅(ちゃせん)」は、茶碗の中に寝かせるようにして使います。手首をあまり動かさず、茶筅を横方向へ一の字を書くようにして振り、泡が盛り上がらない程度に適度に泡立てます。お茶の表面の一部に泡の無い部分が残り、その部分の見た目が半月のような形に見えるのが良いとされています。
表千家の初釜のお菓子
また表千家では決まって、年の始めのお茶会である「初釜(はつがま)」にて、「常盤饅頭(ときわまんじゅう)」というお菓子をいただく習慣があります。常盤饅頭は、雪の中から出てくる若草をイメージして作られたお菓子です。白い薯蕷饅頭(じょうよまんじゅう)の中に、常盤木という千年続く松に見立てた若草色の白餡が入っています。
裏千家
表千家と同じ三千家の一つに数えられている裏千家は、「京都市上京区小川寺之内上ル」に茶室を持つ、表千家の分家です。表千家の不審菴の裏通りに位置するため、裏千家と呼ばれています。
茶室の名前は「今日庵(こんにちあん)」。表千家の三代目である宗旦が、不審庵を三男の江岑に譲った後の隠居処として今日庵を建立しました。現在は、一般財団法人今日庵が管理しています。
茶室の名前は、席開きの客人だった清巌和尚という人物の言葉が由来と言われています。その言葉とは、時間に遅れてしまったために家元である宗旦と入れ違った清巌和尚が、翌日の約束を断る内容として茶室の腰張りに書き記した「懈怠比丘不期明日(けたいのびくみょうにちをきせず)」というものです。
裏千家の歴代家元は以下の通りです。
裏千家の歴代家元は以下の通りです。
- 四代目:仙叟(せんそう)
- 五代目:常叟(じょうそう)
- 六代目:泰叟(たいそう)
- 七代目:竺叟(ちくそう)
- 八代目:一燈(いっとう)
- 九代目:石翁(せきおう)
- 十代目:柏叟(はくそう)
- 十一代目:精中(せいちゅう)
- 十二代目:直叟(じきそう)
- 十三代目:鉄中(てっちゅう)
- 十四代目:碩叟(せきそう)
- 十五代目:汎叟(はんそう)
- 十六代目:玄黙(げんもく)
- 十七代目:丹心斎 ※斎号
裏千家の作法
裏千家の作法は広く普及しているので、習ったことや体験したことがあるという方も多いでしょう。カルチャースクールなどで広く生徒を募集している教室は、裏千家であることが多いです。
裏千家では、入室の際は右足から入り、一畳を4歩で歩きます。これは他の流派よりも歩幅を広くとる歩き方です。座る際は、女性の場合はこぶし一つ分、男性は二つ分ほど膝の間隔を空けて、若干足を開いた状態で座ります。
また裏千家の座礼は「真(しん)」「行(ぎょう)」「草(そう)」の3種類です。真とは、最も丁寧なお辞儀のこと。正座の状態から手のひらをそろえて全て畳に付け、上半身を前に倒します。お辞儀の際は背筋を伸ばしたままにして、猫背にならないようにします。
真よりも少し浅いのが行というお辞儀です。指の第二関節までの部分を畳に付け、正座の状態から腰を少し上げてお辞儀します。この際も背筋が曲がらないようにしてください。 草は一番軽いお辞儀です。指の第二関節までを畳に付け、ひじを軽く曲げてお辞儀します。
真よりも少し浅いのが行というお辞儀です。指の第二関節までの部分を畳に付け、正座の状態から腰を少し上げてお辞儀します。この際も背筋が曲がらないようにしてください。 草は一番軽いお辞儀です。指の第二関節までを畳に付け、ひじを軽く曲げてお辞儀します。
表千家のお茶の点て方
お茶を点てる際は茶筅を立てて入れ、手首を振るようにしてきめの細かい泡を作ります。最後に「の」の字を書いて茶筅を抜き、お茶の中央が盛り上がる形に仕上げてください。表面は全て泡で覆われたような見た目になるのが良いとされています。まろやかで飲みやすい味わいになるはずです。
裏千家の初釜のお菓子
裏千家の初釜では、平安時代の新年の宮中儀式にちなんで作られたと言われている「花びら餅(葩餅)」というお菓子をいただくのが定番です。
花びら餅とは、白餅に、桃色の白みそ餡と甘く煮たごぼうを挟んだお菓子です。お祝いのメニューとされていた「押し鮎」に見立てて作られています。小豆色に染めた薄い菱形の餅を白餅の内側に重ねたものもあり、「菱葩餅(ひしはなびらもち)」と呼ばれます。見た目が華やかで、お正月らしい逸品です。
武者小路千家
最後にご紹介する三千家の流派は、武者小路千家です。武者小路千家の茶室「官休庵(かんきゅうあん)」が、「京都市上京区武者小路通り小川東入」に所在していることが名前の由来となっています。現在は、一般財団法人官休庵が管理しています。
武者小路千家の歴代家元は以下の通りです。
- 四代目:一翁(いちおう)
- 五代目:文叔(ぶんしゅく)
- 六代目:真伯(しんぱく)
- 七代目:堅叟(けんそう)
- 八代目:休翁(きゅうおう)
- 九代目:仁翁(にんおう)
- 十代目:全道(ぜんどう)
- 十一代目:一叟(いっそう)
- 十二代目:聴松(ちょうそう)
- 十三代目:徳翁(とくおう)
- 十四代目:不徹斎(ふてつさい)※斎号
武者小路千家の作法
武者小路千家では、茶室への入室は柱側の足から入ります。歩幅は狭くし、一畳を6歩で歩きます。女性は足を閉じて、男性は膝をこぶし一つ分開けて座るのが正しい座り方です。
座礼をする際は、正座の状態から左手を前にして両手を合わせ、背筋を伸ばしたまま頭を下げます。
武者小路千家のお茶の点て方
お茶を点てる際の作法は、表千家のものに近いです。あまり空気が入らない方が良いとされており、泡立たないようにするため、茶碗を斜めに持って小さな丸を描くように茶筅を動かします。
武者小路千家の初釜のお菓子
武者小路千家における初釜菓子は、「都の春(みやこのはる)」というお菓子です。和歌が由来となっており、京都の春の様子を緑と桃色の2色のきんとんで表現しています。中心には小豆餡が入っています。
茶道具や作法の具体的な違いについて
ここまでは3つの流派をそれぞれご紹介してきました。違いや似ている点について一覧表にまとめましたので、比較してみましょう。
着物 袱紗 所作 座礼 お茶の点て方 初釜菓子
表千家 地味 朱色(女性)
紫色(男性) 左足から入る
6歩で一畳
膝を少し開けて座る 手を八の字の形につき、30度程度体を曲げる あまり泡立てない 常盤饅頭
裏千家 華やか 赤or朱色(女性)
紫色or他の色(男性) 右足から入る
4歩で一畳
膝をしっかり開けて座る 真・行・草の3段階で体を曲げる しっかり泡立てる 花びら餅
武者小路千家 地味 朱色(女性)
紫色(男性) 柱側の足から入る
6歩で一畳
膝をなるべく開けずに座る 左手を前にして両手を合わせ、頭を下げる あまり泡立てない
空気を極力入れない 都の春
一覧表で見ると、やはり表千家と武者小路千家は似た部分が多いことが分かるでしょう。またこの流派だからルールが多い・少ないといった差はなく、それぞれの流派に特徴的なルールがあることがわかります。
着物 | 袱紗 | 所作 | 座礼 | お茶の点て方 | 初釜菓子 | |
表千家 | 地味 | 朱色(女性) 紫色(男性) |
左足から入る 6歩で一畳 膝を少し開けて座る |
手を八の字の形につき、30度程度体を曲げる | あまり泡立てない | 常盤饅頭 |
裏千家 | 華やか | 赤or朱色(女性) 紫色or他の色(男性) |
右足から入る 4歩で一畳 膝をしっかり開けて座る |
真・行・草の3段階で体を曲げる | しっかり泡立てる | 花びら餅 |
武者小路千家 | 地味 | 朱色(女性) 紫色(男性) |
柱側の足から入る 6歩で一畳 膝をなるべく開けずに座る |
左手を前にして両手を合わせ、頭を下げる | あまり泡立てない 空気を極力入れない |
都の春 |
どこの流派がおすすめ?
三千家の中でどこの流派の方が格式高いなどといった差はありません。
本家直系の茶室である不審菴を受け継いでいるのは表千家ですが、世界的な知名度や公の場に現れる機会は、現代では裏千家の方が多いと言えます。
これから茶道を始めるという方には、ぜひ自分のイメージに合った流派を選ぶことをおすすめします。
強いて言うならば、以下のような基準で選ぶのも良いかもしれません。
- ●日本ならではの「わびさび」、奥ゆかしさをより深くまで体験したい:表千家
- ●和の心の美しさや華やかさに触れてみたい:裏千家
- ●歴史の中で起きた合理的な変化を学びたい:武者小路千家
まとめ
本記事では、茶道の「表千家」「裏千家」「武者小路千家」の違いについて解説しました。同じ千利休がルーツとなっている流派でも、それぞれに異なる特徴があることがお分かりいただけたかと思います。
他流派歓迎のお茶会や、初心者に向けた体験型のお稽古を開催している茶道教室もたくさんあります。ぜひ、身近な地域で行っているイベントに足を運んでみて、茶道の世界を体験してみてください。