【伝統芸能の茶道】茶道には資格があるの?「許状」って何のこと?

茶道の世界には本来、一般的な「資格」という概念はありません。これまでは一人ひとりの技術や能力に合わせて習って良い内容を示す「許状」というものしかありませんでした。しかし流派によっては、近代になってから相応する資格を設けているところも存在しています。 本記事では茶道の資格や許状について、詳しく説明していきます。三千家と呼ばれる代表的な流派「表千家」「裏千家」「武者小路千家」を例に挙げてご紹介するので、ぜひ最後まで読んで参考にしてみてください。

茶道の資格とは?

茶道の資格とは?
茶道にはいわゆる師範などになるための国家資格などはありません。また流派によっては、個人の技術や能力を測るための資格試験も設けていません。代わりに原則、各流派の発行する"茶道を学べる許し"を、取得する仕組みになっています。一般的には「許状」や「免状」と呼ばれますが、流派によって呼び名が変わります。 茶道では一つの流派に入門すると、初歩から段階を追って稽古を進めていきます。段階が進む度に、その段階の作法やお点前を学ぶための許状が必要です。

流派によって異なりますが、一定の段階以上の許状を取得すると、他人へ茶道を教えたり、許状の申請をしてあげたりできる実質的な資格を得られます。とは言えこれは「学び終えた」という証ではなく、修了証や免許のようなものではありません。 許状は流派によって、その内容や学ぶ過程が異なります。1回の申請につきかかる費用も異なり、数千円から数万円以上かかる場合もあります。 どの段階までの許状を申請できるのかは教室によって異なるため、入門を検討している際は事前に確認しておきましょう。基本的に許状の申請を行わない教室もあり、一方では講師になることを目標として茶道を教えてくれる教室もあります。目的に合わせて自分が入門する教室を選びましょう。

表千家では資格のかわりに免状を取得する

表千家では資格のかわりに免状を取得する
表千家では、許状のことを「相伝」といいます。全部で9種類の相伝がありますが、一般的な人が申請できるのは7種類までです。これら7種類について、一つずつ見ていきましょう。

1.入門(にゅうもん)

表千家に入門するための相伝です。基本的には茶道の稽古をするために必要な、次の相伝と一緒に取ります。

2.習事(ならいごと)

「習事八ヶ条」と呼ばれる、8つの項目に分けた基礎的なお点前の稽古をしても良いという相伝です。
  • ●茶筅飾(ちゃせんかざり):水指、茶杓、茶入れ、茶碗のいずれかが名物のときのお点前
  • ●台飾(だいかざり):貴人(身分の高い人、官位の高い人)に対する天目台を使用した濃茶のお点前
  • ●長緒(ながお):平茶入や、茶碗の仕服を扱うお点前
  • ●盆香合(ぼんこうごう):香名が名物の時の炭に関するお点前
  • ●花所望(はなしょもう):花入が名物のときや客人が花を持ってきたときに、客人に花を飾ってもらう作法
  • ●炭所望(すみしょもう):炉の季節に、客人に炭手前を依頼する作法
  • ●組合点(くみあわせだて):建水が名物のときに行う濃茶のお点前
  • ●仕組点(しくみだて):道具を運ぶ手間を省いた、濃茶のお点前
習事八ヶ条の中には茶道の一般的な内容として、薄茶・濃茶の基本のお点前や炭手前などが含まれています。先述の通り、基本的には入門の相伝と同じタイミングで申請します。

飾物(かざりもの)

習事の相伝を取得してから1年以上経過すると、「飾物(かざりもの)」の相伝を申請できます。飾物では「飾物五ヶ条」として、
  • ●軸飾(じくかざり):掛物が名物や由緒ある品である場合に行う作法
  • ●壺飾(つぼかざり):炉開きとなる11月の口切(くちきり)の季節に、床に茶壺を飾る作法
  • ●茶入飾(ちゃいれかざり):茶入が名物や由緒のある品である場合に行う作法
  • ●茶碗飾(ちゃわんかざり):茶碗が名物や由緒のある品である場合に行う作法
  • ●茶杓飾(ちゃしゃくかざり):茶杓が名物や由緒のある品である場合に行う作法
を学びます。ここまでは、書籍等でも紹介されていることがある内容です。

4.茶通箱(さつうばこ)

飾物の相伝を取得してから1年以上経過すると、「茶通箱(さつうばこ)」の相伝を申請できます。ここからは、口伝の内容とされています。 茶通箱とは、それぞれに異なる抹茶が入った2つの茶器を入れた茶道具のこと。その名の通り、茶通箱のお点前では、
  • ●客人からいただいた抹茶
  • ●自分で用意していた抹茶
の、2服の濃茶を点てます。

5.唐物(からもの)

茶通箱の相伝を取得してから1年以上経過すると、「唐物(からもの)」の相伝を申請できます。唐物とは、中国から渡来してきた茶入れのこと。唐物のお点前ではそれらを使います。

6.台天目(だいてんもく)

唐物の相伝を取得してから2年以上経過すると、「台天目(だいてんもく)」の相伝を申請できます。高貴な客人に対して点てるお点前で、天目茶碗を天目台にのせてお茶を点てます。

7.盆点(ぼんてん)

台天目の相伝を取得してから2年以上経過すると、「盆点(ぼんてん)」の相伝を申請できます。「四方盆」というお盆を使った唐物のお点前で、独特の清め方が出てきます。

裏千家には資格制度が作られた

裏千家には資格制度が作られた
次に裏千家の制度をご紹介します。茶道の中でも最も広く普及している流派の裏千家では、免状のことを「許状」と言います。現代ではそれぞれの許状の取得状況に応じて、資格を名乗れるようになっています。 裏千家の資格は茶道を学ぶ上での習熟度を表しており、社会的な肩書として表現しやすいようにと、平成12年に作られました。これにより、入試の願書や就職時の履歴書などにも茶道の経歴を明記しやすくなり、茶道に精通していない人からの理解を得やすくなったそうです。 資格の名前は「初級」「中級」「上級」と続き、上級になると助講師として活動できます。その後「講師」「専任講師」「助教授」となっていきます。 それぞれに対応する許状を説明します。

初級

初級では、「入門(にゅうもん)」「小習(こならい)」「茶箱点(ちゃばこだて)」の3つの許状を同時に得て、順に修得していきます。 入門は、お辞儀の仕方や割稽古という部分的な稽古を学んでも良いという免状です。 小習は前八ヶ条と後八ヶ条の十六ヶ条に分かれた、茶道の基本的な内容を学んでも良いという免状です。前八ヶ条は以下の8種類です。
  • ●貴人点 (きにんだて):貴人(身分の高い人、官位の高い人)に対するお点前
  • ●貴人清次 (きにんきよつぐ):貴人に隋伴(お伴)が居る場合のお点前
  • ●茶入荘(ちゃいれかざり):重要な茶入を使う場合などに行なう、濃茶のお点前
  • ●茶碗荘(ちゃわんかざり):重要な茶碗を使う場合に、初座の床にあらかじめ飾っておくお点前
  • ●茶杓荘(ちゃしゃくかざり):重要な茶杓を使う場合に、初座の床にあらかじめ飾っておくお点前
  • ●茶筅荘(ちゃせんかざり):重要な水指を使う場合に、初座の床にあらかじめ飾っておくお点前
  • ●長緒茶入(ながおちゃいれ):長緒茶入を使った、濃茶のお点前
  • ●重ね茶碗(かさねぢゃわん):連客が多い茶席で、茶碗を2碗重ねる、濃茶のお点前
後八ヶ条は以下の8種類です。
  • ●包み帛紗(つつみぶくさ):薄茶器(棗)を袱紗で包み、茶入とするお点前
  • ●壺荘(つぼかざり):口切や開炉のときを中心に行う、葉茶を詰めた茶壺を席中に飾り、客人が拝見を請うお点前
  • ●炭所望(すみしょもう)::炉の季節に、客人に炭手前を依頼する作法
  • ●花所望(はなしょもう):花入が名物のときや客人が花を持ってきたときに、客人に花を飾ってもらう作法
  • ●入子点(いりこだて):杉の木地曲げの建水に茶巾、茶筅、茶杓を仕組んだ茶碗を入れて行うお点前
  • ●盆香合(ぼんこうごう):で特別な香合のときに行う、お盆を使った炭手前
  • ●軸荘(じくかざり):掛物が名物や由緒ある品である場合に行う作法
  • ●大津袋(おおつぶくろ):濃茶を入れた棗を大津袋に入れて行うお点前
茶箱点は、茶箱(ちゃばこ)という箱を使って行うお点前です。季節により種類があります。 裏千家ではここまでを取得すると、初級の資格が得られます。

中級

中級では、「茶通箱(さつうばこ)」「小唐物(からもの)」「台天目(だいてんもく)」「盆点(ぼんだて)」「和巾点(わきんだて)」の5つの許状を同時もしくは随時得て、順に修得していきます。初級の許状と一緒に申請することも可能です。それぞれの許状では、以下のお点前や作法のお稽古をすることを許しています。
  • ●茶通箱:二種類の濃茶を同じ客に差し上げる場合の点前
  • ●唐物 :中国産の唐物の茶入れを使ったお点前
  • ●台天目:天目茶碗を台に乗せて扱うお点前
  • ●盆点:唐物茶入が盆に乗っている場合のお点前
  • ●和巾点:名物裂(めいぶつぎれ)、拝領裂(はいりょうぎれ)などで作った古帛紗(こぶくさ)の上に、袋に入れた中次(なかつぎ)という茶器をのせて扱うお点前
ここまでを取得することで中級の資格が得られます。初級から通算して、2~3年で取得するのが標準とされています。ただしこれは先生や本人の資質によって大きく前後するため、あくまでも参考程度に考えてください。 なお、和巾点を除いた4つの許状をまとめて「四ヶ伝(しかでん)」と呼びます。

上級(助講師)

上級では「行之行台子(ぎょうのぎょうだいす)」「大円草(だいえんそう)」「引次(ひきつぎ)」の3つの許状を同時もしくは随時得て、順に修得していきます。それぞれの許状では、以下のお点前や作法のお稽古をすることを許しています。
  • ●行之行台子: 和巾点を取得してから1年以上経つと得られる。別名「乱かざり」ともいわれる、行台子を持って行う奥秘の基礎
  • ●大円草:大円盆(だいえんぼん)を持って行う、格外の奥秘の手続き
  • ●引次:取得することで助講師の資格が得られる。教授者となり、所定の手続きを経ることで弟子の許状申請(取次)を行える

講師

講師では「真之行台子 (しんのぎょうだいす)」「大円真(だいえんしん)」「正引次(せいひきつぎ)」の3つの許状を同時もしくは随時得て、順に修得していきます。それぞれの許状では、以下のお点前や作法のお稽古をすることを許しています。
  • ●真之行台子 :引継ぎを取得してから1年以上経ち、行之行台子を充分に修得できた者が得られる。一名「奥儀」といわれ、真台子(しんだいす)を持って行う奥儀の根本
  • ●大円真:大円盆を持って、真台子で行う格外の奥秘の手続き
  • ●正引次 :取得することで講師の資格が得られる

専任講師

講師は正引継ぎを取得してから1年以上経ち、「茶名・紋許(ちゃめい・もんきょ)」の許しを得て、修得します。茶名とは、歴代家元の「宗」の一字をいただくもので、資質があると認められた人だけが得られます。取得すると専任講師の資格が得られます。

助教授

助教授は茶名を取得してから2年以上経ち、「準教授 (じゅんきょうじゅ)」を学ぶ許しを得て、修得していきます。25歳以上という年齢の下限があります。

武者小路千家の資格の種類

武者小路千家の資格の種類
武者小路千家では、裏千家と同じく「許状」を得ることで教授や正教授の資格を得ます。 許状の種類は11種に分かれます。裏千家と共通する部分も多いので、ここでは名称のみご紹介します。
  • ●的伝(てきでん) ※他流派の入門にあたる許状です
  • ●小習(こならい)Ⅰ(長緒、盆香合)
  • ●小習(こならい)Ⅱ(入子調、台調)
  • ●小習(こならい)Ⅲ(壺飾、軸飾)
  • ●唐物(からもの)
  • ●茶通箱(さつうばこ)
  • ●台天目(だいてんもく)
  • ●盆点(ぼんだて)
  • ●教授
  • ●正教授
  • ●相伝(そうでん)
武者小路千家では、小習までのお稽古を通じて、武者小路千家の茶道の基礎を学びます。 唐物の許状を得ると助教授、盆点までの許状を得ると準教授、最高位の相伝の許状を得ると正教授となります。 資格の取り方や流れ、期間などが教室によって大きく異なる点も、武者小路千家の特徴です。

まとめ

「表千家」「裏千家」「武者小路千家」それぞれの許状についてご説明しました。茶道には正式な資格はありませんが、許状を得ることで技術や能力が上がっていき、一定の許状を得た段階で講師などとして活動できる立場になることが分かりました。 茶道を習い始めたいと考えている方はぜひ本記事の内容を参考にして、希望する段階の許状を得られる教室を探してみてください。
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