
連載「こたつの歴史」では、日本の暮らしの代表的アイコンの一つである「こたつ」の歴史について紹介していきます。
最終回の今回は、こたつ板の登場と、その後についてです。(全5回)
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こたつ板の登場
最初期のこたつテーブルと現在のこたつテーブルにはある大きな違いがあった。テーブルの上につける、こたつ板が付いていなかったのである。

(朝日新聞 2014年11月22日 朝刊 「サザエさんをさがして」)より
こたつ板の発祥は、旅館などで食卓の代わりとして使われていたものが最初とされているが、一般家庭に広まったのは昭和34年頃と考えられている。漫画サザエさんにおいても、この年の秋頃からこたつ板で食事をするシーンが描かれている。

(長谷川町子全集 9巻/長谷川町子著 朝日新聞出版)より

(長谷川町子全集 13巻/長谷川町子著 朝日新聞出版)より
朝日新聞 2014年11月22日朝刊掲載の「サザエさんをさがして」においても、昭和32年の「電気やぐらこたつ」1号機のカタログにはこたつ板は掲載されていないが、2年後の昭和34年には6種類のこたつ板が掲載されている。との記述がある。
こたつの盛衰
東芝の電気やぐらこたつのヒットにより、大手メーカー各社も次々にこたつ市場に参入し、昭和35年からの15年間の間に、4500万台ものこたつが売れたという。ピーク時の昭和49年には368万台のこたつが出荷された。

(https://www.sej.co.jp より)
しかし、平成に入ってからこたつの国内生産台数は減少。平成2年には178万台だった生産台数は、平成15年になると24万7千台にまで減少。平成16年には調査対象から除外され現在に至っている。
冬にもやさしい日本住宅
衰退の要因の一つとして考えられるのは、戦後じわじわと進んでいった日本の住宅事情の変化である。住宅メーカーの台頭や公団住宅の登場、ニュータウンの増設など、鉄筋コンクリート製の機密性の高い住宅が増えてきたことが一つの要因であろう。

(朝日クロニクル 20世紀 第2巻/朝日新聞社)より
つまり、日本住宅の洋風化である。「冬にやさしくなかった」日本の住宅が、「冬にもやさしい」住宅へと変化してきたわけである。

冬の過ごし方が、暖かい場所に家族全員で集まる過ごし方から、部屋全体を暖める過ごし方へと変化してきたわけである。断熱性や気密性に優れた住宅へのニーズは平成以降、特に高まっていくこととなる。
こたつの現在
現在、夏でも使える家具調こたつや、一人暮らし用の省スペースこたつなど、こたつも、時代のニーズに合わせて様式を変化させてはいるものの、こたつテーブルの生産に関しては、12年に東芝がこたつ台の生産を取りやめて以来、国内メーカーはほとんど撤退。海外委託が主流となっているのが実情である。

(https://www.ikehikoshop.jp)より
団欒の象徴として
以上がこたつの歴史である。
「こたつの誕生と畳文化の誕生は、その成り立ちからして密接に関わっていたとも考えられる」と第1回目で書いたが、畳に代表される座の文化と誕生をともにしたこたつは、その発展とともに、団欒の象徴としての日本文化を作りあげてきたと言えるわけである。

何もここで、「こたつ文化の復興を願う」と言いたい訳ではない。衰退と発展の、絶え間ないしたたかな繰り返しこそが文化の歴史である。あとに残るのは、ただ頑然とした事実。それだけである。

だが、日本家屋の特性から生まれた生活の知恵としてのこたつが、時代ごとにその様式を変えていき、日本独自の生活文化として発展し、人々に愛されてきた。この事実に変わりはない。今はその歴史の誇りを胸に、こたつ文化の更なる発展を願うだけである。
了
編集後記
全5回に渡ってお送りしてきた「こたつの歴史」いかがでしたでしょうか?今回こたつの歴史を書くにあたって、以下の文献を参考とさせていただきました。
- 「石城日記 第2巻/尾崎石城著」慶應義塾大学文学部古文書室HP
- 「サザエさんをさがして/柏木友紀著」朝日新聞2014年11月22日朝刊
- 「長谷川町子全集/長谷川町子著」 朝日新聞出版
- 「日本の生活道具百科2/中林啓治著」河出書房新社
- 「日本人の住まい/宮本常一著」百の知恵双書
- 「新聞広告で見つけよう!2」くもん出版
- 「衣食住にみる日本人の歴史 2,3,4/西ケ谷恭弘著」あすなろ書房
- 「くらベてみよう100年前と今/本間昇著」岩崎書店
- 「衣食住の歴史/西本豊弘著」ポプラ社
参考文献
(順不同・敬称略)
この「こたつの歴史」で私が描きたかったことは、こたつ文化と畳に代表される座の文化はともに誕生し、ともに発展してきた。という事です。私がそのように述べることの意図を理解していただけたら幸いと思います。
出来るだけ分かりやすく、正確に書いたつもりです。しかし、なかには事実と異なる部分もあるかもしれません。その場合は遠慮なくお申し付け願いたいと存じます。また、このような資料もあるというような情報提供も歓迎しております。その際は、このサイトの運営元である株式会社イケヒコ・コーポレーションまで、ご連絡をいただけましたら幸いです。
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担当:株式会社イケヒコ・コーポレーション 伊東朋宏